最高裁判所第二小法廷 昭和58年(オ)49号 判決 1985年11月29日
主文
一 原判決及び第一審判決を次のとおり変更する。
上告人は、被上告人に対し、第一審判決添付別紙物件目録(以下「物件目録」という。)一ないし三一記載の各不動産に関する第一審判決添付別紙登記目録(以下「登記目録」という。)一ないし七記載の各登記について、被上告人の持分を一二分の五、亡Dの持分を一二分の二、上告人の持分を一二分の一とし、物件目録三二記載の建物に関する登記目録八記載の登記について、被上告人の持分を二四分の五、亡Dの持分を二四分の二、上告人の持分を二四分の一とする更正登記手続をせよ。
被上告人のその余の請求を棄却する。
二 上告人のその余の上告を棄却する。
三 訴訟の総費用は、これを五分し、その三を上告人の、その余を被上告人の負担とする。
理由
一 上告代理人中西清一、同千種恒宏、同尾崎敬則、同清水正憲の上告理由第一点について原判決及び第一審判決は、後記の理由により変更されるべきものであるから、論旨は、その前提を欠き、上告適法の理由に当たらない。
二 同第四点について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
三 同第二点について
1 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
(一) 物件目録一ないし三二の各不動産(以下、一括していうときは、「本件各不動産」という。)は、もとEの所有(ただし、物件目録三二の建物については持分二分の一の共有)であつたが、同人が昭和四七年三月二五日死亡したため、同人の妻D、長男被上告人、長女上告人、次男F、次女Gがこれらを共同相続した。
(二) 庄左衛門が、昭和四六年一月二日付の自筆証書遺言により、同人所有の全財産の二分の一を被上告人に、残りの二分の一を法定相続分に応じて全相続人にそれぞれ相続させる旨の遺言をしたので、各相続人の指定相続分は、Dが一二分の二、被上告人が一二分の七、上告人、F、Gがいずれも一二分の一となる。そうすると、各相続人の持分は、物件目録一ないし三一記載の各不動産について、Dが一二分の二、被上告人が一二分の七、上告人、F、Gがいずれも一二分の一となり、物件目録三二の建物について、Dが二四分の二、被上告人が二四分の七、上告人、F、Gがいずれも二四分の一となる。
(三) ところが、物件目録一ないし三一記載の各不動産について、登記目録一ないし七のとおり、Dの持分を六分の二、その余の相続人の持分をいずれも六分の一とする所有権移転ないし保存の各登記が経由されており、物件目録三二の建物について、登記目録八のとおり、Dの持分を一二分の二、その余の相続人の持分をいずれも一二分の一とする所有権移転登記が経由されている。
(四) Dは、昭和五一年一〇月二八日死亡し、被上告人、上告人、F、Gが相続によりDの権利義務を承継した。
2 被上告人は、本訴において、上告人に対し、右事実関係に基づき、物件目録一ないし三一記載の各不動産に関する登記目録一ないし七記載の各登記について、被上告人の持分を一二分の七、Dの持分を一二分の二、上告人の持分を一二分の一とし、物件目録三二の建物に関する登記目録八の登記について、被上告人の持分を二四分の七、Dの持分を二四分の二、上告人の持分を二四分の一とする更正登記手続を請求しているところ、論旨は、本件は、F、Gをも当事者とすべき固有必要的共同訴訟に当たるから、本件訴えは不適法であるというのである。
ところで、相続財産に属する不動産につき共同相続人間において真実の相続分に合致しない登記が経由された場合において、自己の持分を登記上侵害されている共同相続人の一人がこれを侵害している他の共同相続人に対して妨害排除としての実質を有する一部抹消(更正)登記手続を請求する訴訟は、右他の共同相続人全員を被告とすべき固有必要的共同訴訟ではないというべきである。けだし、共同相続人間における相続財産の持分に関する紛争は、侵害された者と侵害している者との間の個別的な紛争解決が可能であるからである。
これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件各不動産に対する被上告人の真の持分は、登記目録に表示されている被上告人の持分と一致していない部分について、D、上告人、F、Gによつて、登記上侵害されていることが明らかであるが、被上告人は、上告人だけを被告として、上告人が被上告人の持分を登記上侵害している限度において妨害排除としての実質を有する一部抹消(更正)登記手続を請求することができるものというべきである。したがつて、被上告人の上告人に対する本件訴えを適法とした原判決は正当であり、論旨は理由がないことに帰する。
四 同第三点について
前記のとおり本件各不動産に対する被上告人の真の持分は、登記目録に表示されている被上告人の持分と一致していない部分について、D、上告人、F、Gによつて、登記上侵害されているものであるから、被上告人は、上告人に対し、上告人が被上告人の持分を登記上侵害している限度において妨害排除としての実質を有する一部抹消(更正)登記手続を請求することができるものというべきである。
そして、本件各不動産についての上告人の真の持分は、物件目録一ないし三一記載の各不動産について一二分の一、物件目録三二記載の建物について二四分の一であつて、上告人は、物件目録一ないし三一記載の各不動産に関する登記目録一ないし七記載の各登記に表示されている上告人の持分六分の一のうち持分一二分の一の部分、物件目録三二記載の建物に関する登記目録八記載の登記に表示されている上告人の持分一二分の一のうち持分二四分の一の部分については、いずれも被上告人の持分を登記上侵害していることになるから、上告人は、被上告人に対し、右侵害部分につき妨害排除としての一部抹消(更正)登記手続をする義務を負うものといわなければならない。
また、本件各不動産についてのDの真の持分は、物件目録一ないし三一記載の各不動産について一二分の二、物件目録三二記載の建物について二四分の二であつて、Dは、物件目録一ないし三一記載の各不動産に関する登記目録一ないし七記載の各登記に表示されているDの持分六分の二のうち持分一二分の二の部分、物件目録三二記載の建物に関する登記目録八記載の登記に表示されているDの持分一二分の二のうち持分二四分の二の部分については、いずれも被上告人の持分を登記上侵害していることになるから、Dは、被上告人に対し、右侵害部分につき妨害排除としての一部抹消(更正)登記手続をする義務を負うものといわなければならない。
ところで、被相続人の不動産に関する登記義務が共同相続人によつて承継されたときは、当該共同相続人の登記義務は、不可分債務であると解すべきである(最高裁昭和三三年(オ)第五一七号同三六年一二月一五日第二小法廷判決・民集一五巻一一号二八六五頁参照)。これを本件についてみると、Dが前記のとおり死亡したことにより、Dの前記登記義務は、不可分債務としてDの共同相続人に承継され、したがつて、上告人は、Dの前別記登記義務を承継したものといわなければならない。
そうすると、結局、上告人は、被上告人に対し、物件目録一ないし三一記載の各不動産に関する登記目録一ないし七記載の各登記に表示されている上告人の持分六分の一を一二分の一とし、物件目録三二記載の建物に関する登記目録八記載の登記に表示されている上告人の持分一二分の一を二四分の一とし、物件目録一ないし三一記載の各不動産に関する登記目録一ないし七記載の各登記に表示されているDの持分六分の二を一二分の二とし、物件目録三二記載の建物に関する登記目録八記載の登記に表示されているDの持分一二分の二を二四分の二としたうえ、物件目録一ないし三一記載の各不動産に関する登記目録一ないし七記載の各登記に表示されている被上告人の持分六分の一を一二分の五とし、物件目録三二記載の建物に関する登記目録八記載の登記に表示されている被上告人の持分一二分の一を二四分の五とすべき妨害排除としての一部抹消(更正)登記手続をする義務を負うものといわなければならない。
以上によれば、被上告人の上告人に対する本訴請求は、右の一部抹消(更正)登記手続を求める限度において理由があるから、この限度においてのみ認容すべきであり、その余は失当として棄却すべきものである。したがつて、被上告人の本訴請求を右限度を超えて全部認容した原判決及び第一審判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、右違法をいう論旨は理由がある。
その余の論旨は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
五 よつて、原判決及び第一審判決を前記の趣旨に変更し、その余の部分に関する上告を棄却すべきものとし、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九二条、八九条を適用し、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 木 下 忠 良
裁判官 大 橋 進
裁判官 牧 圭 次
裁判官 島 谷 六 郎
裁判官 藤 島 昭